五 我が愛する乗鞍岳

吉川 正裕

初夏の乗鞍高原
 吐く息が白い下界では、
最高気温を更新したとかしないとかテレビが騒いでいた。
途中山峡の無料の露天風呂に身をゆだねやって来たここは
雲上三千メートル桔梗が原。
防寒具なしでは立っていられない耳がきれるように痛い、
上着で風をさえぎりライターで時間を確認する。
午前三時三十分を過ぎたところだ。
白みかけた東の空には明けの明星と残照の月が輝いている。
日の出までにはもう少し時間がある、
この季節だけのすばらしき感動の北アルプスへ!
天上へ突き上げる高峰が人を受け入れる季節夏、
「あいの風」に乗ってさぁー、出かけよう・
 深田久弥が最初に頂上に立ったのは、初冬の快晴の日であった。
そこから眺めた日本アルプスは言わずもがな
眼前に大きく御嶽、遠くに美しく白山、
そしてその二つの間には、限りのない果てまで山なみが続いていた。
 「これほどの豊かさと厚みを持った山も稀である。(中略)
多くの山上湖があり、森林があり、(中略)
それを少し誇張して言うと、
穂高信者は、闘争的で、現実的で、ドライなのに引きかえ
乗鞍信者は平和的で、放漫的でウエットである。」
・ ・ ・ 深田 久弥。「 日本百名山 」より
 山すそをゆったりと広げた乗鞍岳はどこから見ても美しい。
あの女工史で知られる野麦峠からの姿は印象深いものがある。
信州から雪の峠を越える際、
その美しい姿を眺め、故郷に帰れることを喜んだという。

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