初秋の新穂高から鏡平へ

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吉川 正裕

 初秋の新穂高から蒲田川沿いの左俣谷をひたすら六時間、鏡平へ
暗闇の中を四時に新穂高を出発して二時間あまり、昨夜は星空を眺めて九時にシュラフに入る。起きた時にはすでに星の光はなく懐中電灯をたよりに白樺とぶなの単調な林道を歩く。
 ここはわさび沢山荘を過ぎたあたり、この先双六岳への登りにかかるが、行く手の雲行きが少し怪しい。しばらくして、沢のガレ場にさしかかった所で岩の間を動きまわる体長十二センチほどの飛騨の ”おこじょ” が出迎えてくれた。とってもひとなつっこくて逃げない、足元をまつわり付くその姿に愛きょうがある、雪が降る頃には全身真っ白になり雷鳥とともに登山者から可愛がられている。
 約六時間で鏡池に到着する、心配していたガスがとれない本来であれば手が届くほどの間近に槍ヶ岳の雄姿があり、全容をこの池に映すはずなのだが。一時間あまり様子を見るが姿を決して現してはくれない。双六方面から来た下山者の情報も、雷鳥が沢山出ているからまずガスが晴れる事はなさそうだという。秋の日はツルベ落とし、夕刻六時には駐車場まで帰りたい。な〜に、また来年があるさと引き返し、三十分も下山したであろうか、なんとガスがきれ、ジャンダルムそして西穂高岳が顔を現すではないか、引き返すか迷う。下りの三十分は、登りで一時間はかかる。今まで歩き通して疲労しているのと、この先まだ五時間歩き通さなければならないのを思い断念し下山を選択する。西穂の谷から湧き上がる雲下山する前方はるかかなたには、雲の中から乗鞍岳が姿を現す。左に子槍も現れ、槍ヶ岳山荘の赤い屋根、そして双眼鏡を覗けば槍ヶ岳を征服して山頂に立つ登山者も見える二時間あまりですっかりガスが取れ、その全容を現す。槍ヶ岳はあくまでも孤高を保ち、すっくと天に向かって立っていた。この次は、微笑んでおくれ槍ヶ岳、また会うその日まで。

左からジャンダルム、西穂高岳。下に見えるのが蒲田川の河原です。